『神の値段』第1回
何日か前に『神の値段』についてブログを投稿しました。その投稿は書評みたいに紹介してないので、改めて紹介を挟みつつ、印象に残った各シーンを抜粋していきたいと思います。 (全3回)
『神の値段』は2016年の「このミステリーがすごい!」の大賞作品で、現代的アートを下地にした推理小説です。著作者の一色さゆりさんは、ギャラリーや美術館の学芸員を務めたり、本格的な現代の美術業界で活躍されているそうです。
ちなみに、小説後半でアートフェアが香港で開催していますが、このモデルはおそらく「 アート・バーゼル香港」という世界的に有名なアート会場だと思われます。この小説の文庫初版が2017年の1月。その2ヶ月後の3月に催されていました。
参照↓
アジア最大級のアートフェア、 アート・バーゼル香港2017がいよいよ開幕! 今年の見どころは?|美術手帖
現代の美術や芸術家の事、私は素人で全く予備の知識も有りません。ですが、この小説を読むと物凄く作家のアート愛や神聖な芸術感覚が伝わってきます。
そして本格的なアート案内書のように、多くを学べると思います。例えば、後半にオークションで出展される芸術家の面々は実際に実在しています。ネットで検索するのも良いでしょう。
最初の五点は、無名より少し前の世代の中国人画家ザオ・ウーキーの作品だった。ザオは渡仏してパウルクレーに出会い、影響を与え合ったことで有名だが、最初の一点はまさにその時期のものだった。(p.314)
つぎに会場が熱を帯びたのは、「中国のマティス」と呼ばれる二十世紀を代表する巨匠サンユーの油絵だった。流れるような裸婦や生け花の具象画を描き、レオナール・フジタとも交流があった。(p.315-316)
このようなアジアを代表する芸術家達が取り上げられています。
また、アートフェアを作者はこう表現しています。
アートフェアの魅力のひとつに、美術館では取り上げられないような最新かつマニアックな作品を一度に沢山見られる、という点がある。••••
ごく限られたギャラリーしか参加できないこのフェアにおいて、出展の倍率は五倍近いと聞いた。フェアの主催者側もクオリティを保つため、厳しい評価基準を設けて世界中から申し込んで来るギャラリーを数百に選別している。だからこそ一流のフェアに参加することは一流ギャラリーの証でもある。(p.273-274)
このように、現代アートを読者に向けて熱心に伝えています。必ず一度は足を運んでみたくなります。理解なしに眺めるも良いですが、感覚なしには観られない作品ばかりでしょう。
ここまでミステリー的な要素を紹介してませんが、amazonなどいくつかのレビューを拝見したところ、少しインパクトに欠けるという評価がありました。ということは、作者はミステリーの緻密な伏線や犯行の巧妙さよりも、アートに対する情熱と本質を優先して感じて欲しかったのだろうと思います。
ここからは作中に出てきた各シーンを抜粋していきます。これらのセリフや表現の数々には、何か想像を掻き立てる気がしてなりません。(→第2回へつづく)