itoh-imaginary0205のブログ

ゆかしい雑記物。はたまた備忘録。

"Split"(2016) DIDと人間の進化を接合させる

 

『スプリット』という映画を観てみました。M・ナイト・シャマラン監督の作品で有名らしいのですが、私は余りよく知らないもので精神的な部分を扱う作品だなと興味本位で取ってみました。split=割る、裂くと訳されるわけですが、おそらくポスターの裂けた感じから取られているのでしょう。

この映画は多重人格障害(現、解離性同一性障害)のスリルホラーと、誘拐された女子高校生達の恐怖心理を組み合わせた作品です。

 

(ジャンル)スリラー、サスペンス、ホラー、ミステリー

Split | Movie Page | DVD, Blu-ray, Digital HD, On Demand, Trailers, Downloads | Universal Pictures Entertainment Portal

 オフィシャルサイト

映画『スプリット』公式サイト 10.6[FRI] Blu-ray&DVDリリース!

 

まず単純な感想からですが、主演のマカヴォイは『フィルス』(2013)で異色の役を演じていたので、今回も人格が変わる度に迫力ある演技をしているなぁと感心しました。人格が変わる仕草は色々特徴的なので、面白かったですね。

 

実際の映画全体については、多重人格者の性質が人間の進化に結びつく視点を提供しているので、それがかなり(非現実だが)魅力となって示されていました。つまり、人格や精神意識が発する身体や能力の開花を、人間の超越的な「進化」に当てはめさせるのです。例えば糖尿病を持つ一人格ゆえに、身体が化学反応を発生させて糖尿病の症状が現われるとされています。精神が肉体に影響を及ぼす例は、必ずしも非現実と断言できない側面が有るそうです。

映画では、トラウマを超克するための新たな人格、「ビースト」(単に獣だけでなく、自分を守る存在)を多重人格の主人公に宿していきます。トラウマで生じる幻影のはずが、肉体まで硬化するような怪物に変身します。とりわけ精神が、怪物(親というトラウマ)には怪物(肉体の動物化)で打ち勝つしかない「目には目を」の道理に従っているのです。

最後の、動物園だったエンドも「進化」の一貫性を持たせるものだとすればそれなりに納得出来ます。

 

しかし、私は今回の映画に以下の2つの不足点があると述べておきます。

 

第一に、「進化と怪物」の関連性です。進化とは動物進化の位置づけに最大の特徴を持ちます。ですが、だからといって「怪物」を進化の延長上にみなして良いのかについては、常に疑問があります。別の意味に変わるような、例えばファンタジーの領域に触れる可能性があります。映画中の怪物は人の型を残してましたが、巨大化をそれほどしえなかったという面で、怪物さに欠ける存在でした。また、体の各部を諸々の動物に例えた「ビースト」(カウンセリング中のセリフにあり)が原型だとしたら、それは進化ではなく「つきはぎなるもの」なのではないでしょうか。こうした微妙な感覚を抜きにして、単線的に動物進化と怪物を繋げただけでは、何か違和感の残るシーンがあるのではないか、と最終的に思いました。

 

そして第二に、女子高生とはこの映画でどういう存在を企図していたのでしょうか。彼女らは、「(覚醒せず)寝ている」「(汚されず)不純である」「(傷を受けず)何も傷ついていない」などで、ビーストの食料とされています。同じ人間なのに正反対、そういう対比の中で出てくるというわけです。

ですが私は、多重人格者に一方的に誘拐され、そのように勝手に解釈されるというのは酷に見えてしまいました。女子高生が「いずれ」目覚めるか既に(ある)状態なのか、それとも「そもそも」見込みも(ない)状態なのかでは、意味が大きく異なります。確かに、上に挙げた表現の時点で背後に(ある)のを暗示してますが、それ故に露骨な恣意性を感じてなりません。要するに、わたしは安易に対比させることは良くないという逆の立場といえます。

なので今回は、女子高生の妥当性というべきか、心理的にも理解に苦しんだかもしれません。

(ホラーやスリラー系はあまり観ず、気に入る作品が少ない理由にもよる。)

 

 

【感想のまとめ】

この映画は、全体的に面白かったと思います。それは動物の進化と精神の能力開花を合わせる試みであって、その一貫性を上手く表現されていました。

ですが、進化論的なのをそのまま精神や人格の開花に適応させることは難しく、肉体の超越が動物進化の限界領域を超えてしまえば、ファンタジーに映るという危うさも残っていたと思います。要は「怪物」は精神の屈折したかたちであれ、それ自体枠にはまりにくい存在だからです。(「進化」にも関連する)

しかし1番の収穫は、主演のマカヴォイの凄い演技が観られたことです。純粋に彼の他の作品を見てみようと思いました。