itoh-imaginary0205のブログ

ゆかしい雑記物。はたまた備忘録。

然と。

 

書店に並ぶ小説を探していた。
私は小説を買うことが少ない。話題になって平積みされている本を眺め見るだけで満足する。
ミステリの小説を買おうかと、始めにあたりをつけていたが、いっこうに迷っていた。それは悪くも、私は何のために本を買うのか、という思いさえ浮かぶことになった。それでも、見どころがあって素晴らしいと思える小説に出会いたかった。
表題をみて、中も一部立ち読みして、を繰り返す。
時には、気持ちや時間がぐちゃぐちゃに潰れてくる。そんなこんなで、複雑な感情が漏れてくる。
ここで、頭を整理するためにスマートフォンを取り出した。思いついた望むフレーズを検索すれば、何でも出ると感じたのだ。
「小説」、「書(道)」の2つだけ。
結果は何も出てない。ネットで小説家になろうという宣伝や、著名だけれど、欲しい小説とは思えないものだった。おすすめ何選の類は初めから見ないで、頭から除外した。「書道」とは、書道家をモデルにした題材はないかと踏んだからだ。
単純にこれだけでは出るわけもないだろうと思いつつ、ふたたび棚を眺めようと決める。


この本は中身を見なかった。表題は

『神の値段』

決め手は、書いた人が美術館の学芸員であったこと。そして、ほとんど「誰も会ったことのない」芸術家、という背表紙のあらすじ。ここに、独創性を感じた。
数千とある小説からこの本を選ぶまで1時間は掛かったのではないだろうか。


買って翌日、早速読み進める。
どんどん進む。
あれ?この芸術家は、絵画でも油絵や水彩画を作品にしていない。
出てくるのは、筆と紙を使った抽象画。
しかも、墨や硯にも言及している。
私はこの瞬間に、大きな疑問をもった。

「なぜ、こうも書に関連するような小説に出会えたのだろうか。」

あの時の検索は、そうであったら良いという条件に含まれるが、けして「絶対」ではなかった。
「謎の芸術家」が、まさかの「書道」に繋がるなんて、夢にも思わない偶然だった。
いや、この繋がりは私が無理にこじつけた単なる必然だったのだろうか。
それでも皆目、理由が見当たらない。
あらゆる理由を探し続けた私は、その疲れのあまり、読みを中断しようと考えた。
電車のホームで立ち読みを一旦やめにし、ふいに顔を上げる。
眼前に広がる壁面の広告は、他でもない

「芸術」

展示会についての、しかもたった2文字が離れない。頭は思考を止めたのに、なぜ眼に映っているのか。
現実と同調しているのかと疑いたくなる。正直、背筋を凍らすほどでなかったが、目は見開いたまま、驚きを隠せない。
またしても偶然だったのだろうか。


ともかく、不可解な状態があるらしい。
そう直感で判断する。

 

 

神の値段 (宝島社文庫)

神の値段 (宝島社文庫)